事業を行うのであれば、株式会社や合同会社そして一般社団法人などその組織形態は色々自由に選ぶことが出来ます。

その中で敢えて、技術研究組合を選ぶというのはどのような場合だと思いますか?以前の投稿で、『技術研究組合が組成される時..』というタイトルの記事を執筆しましたが、やはり、何といっても神のお告げ(役所の思惑、民間の忖度..)により、国家プロジェクトを遂行するべく組成されることが圧倒的に多いと思います。 注:あくまでも個人の感想です

しかし中には国家予算を当てにしない技術研究組合も実際存在します。一般企業が複数社で研究開発を行い、新しいテクノロジーを生み出そうとしています。そのような場合、研究開発資金に余裕のある大企業が中心となります。

中小企業が集まって研究開発資金を出し合って活動するという場合は、途中で資金がショートする場合が多く、あまりうまくいかないのが現実です。当たれば大きいと夢を抱いて、不確実性の高い技術開発のプロジェクトを当初計画のみで見切り発車するのは、とても危険です。

技術研究組合という組織であれば、設立後の国の補助金等受給に有利に働くのでは?という淡い期待は持たない方がいいでしょう。世の中に存在する技術研究組合が多くの補助金や委託費を受給しているのは、事業者が自分たちの技術革新の可能性をアピールした結果ではなく、国家プロジェクトを遂行する中で、技術研究組合という組織体が受け皿として採用されているからです。

そうは言いつつも、技術研究組合を組成することとなった組合員企業(基本的に大企業)は、国家予算で研究開発が出来るというところだけがメリットなのでしょうか。実際国から出る予算は、基本的に研究開発に直接的に帰す部分に限られるため、組織の運営費や一般的に管理費用は含まれません。
従って、これらの間接費用は基本的に組合員企業が負担する必要があります。

また組合員企業も積極的に自己資金を投下して、国家プロジェクトに関係なく研究開発を行うケースが多々あります。

では、大企業が技術研究組合を通じてインセンティブは何かあるのでしょうか。純粋に複数の企業がそれぞれの技術を持ち合わせることでもたらされる相乗効果や、1社だけで開発を行うのではなく複数社が集まることで費用負担の軽減を図るなど、オープンイノベーションのコンセプト通りの魅力も無視出来ません。しかしもう一つ大きな魅力があります。

それは、試験研究費の税額控除制度となります。

制度が複雑なため、技術研究組合に対して大企業(ここで言う大企業とは、基本的に資本金1億円超の会社のことです)が拠出した賦課金(試験研究費)の内、どの程度税額控除の対象となるかを説明します。
※令和3年9月現在の税制に基づきます。

税法解説ではないので、とても簡略化させて頂きます。
※下図クリックで、別途PDFファイルが立ち上がります。

以下の図の①と②の合計が税額控除の合計金額となります。


注釈:
※1平均売上金額:当期と過去3年間の売上高の平均額
※2基準年度:  令和2年2月1日以前に最後に終了した事業年度

例えば、

賦課金(試験研究費)  1億円
法人税額(税額控除前) 5千万円

の組合員企業があった場合、

①総額型税額控除ですべての要件を満たし、税額控除の上限が25%+10%+5%と仮定し、試験研究費は前年と同水準(すなわち税額控除率、試験研究費の8.5%)とすると

法人税額5000万円×40%(25%+10%+5%)=2000万円  

     VS  

1億円×8.5%=850万円 

いずれか小さい方

  ⇒ ①における税額控除額850万円

さらに、②のオープンイノベーション型税額控除にて

法人税額5000万円×10%=500万円  

     VS  

1億円×20%=2000万円

いずれか小さい方

⇒ ②における税額控除額500万円

となり、 ① + ② = 1350万円

が法人税から税額控除されることとなります。

ここで考えるべきポイントとしましては、この賦課金は法人税法上損金(費用)として計上され、法人税額の圧縮にも寄与しているという点です。大企業を前提に実効税率を35%としますと、

賦課金(試験研究費)1億円×35% + 1350万円 =4850万円 

という結果になります。すなわち、1億円の支出のうち、4850万円は税額の減少により回収出来ることとなりますので、実質負担は、5150万円(約50%)となります。

さらに、ここでは説明を割愛しますが、技術研究組合に対する賦課金については、①総額型税額控除(試験研究費)及び②オープンイノベーション型税額控除(特別試験研究費)の適用を受ける際の要件が厳しくない点も魅力の一つです。

以上、技術研究組合に対して拠出される組合員からの賦課金について、利用できる税制面の特典の解説でした。