昨年12月14日に開催された「全世代型社会保障検討会議(第12回) 」では、年収1200万円以上の高所得者について児童手当の特例給付を見直す方針が表明されました。

それを受けて、2月2日、正式に高所得者世帯の児童手当を廃止する「児童手当関連法」の改正案が閣議決定されました。

この改正に対しては、「少子化対策に逆行する」とか「子育て計画が狂う」などとの反発の声が挙がっています。改めて、児童手当とはどのような制度で、今回の改正でどのように変わるのか、また、今後、児童手当の支給はどうなっていくのかについてまとめてみました。

1)児童手当とは?

児童手当とは、生活の安定と、児童の健やかな成長に資するために、児童の養育者に支給される手当です。

【支給対象】

○ 支給対象者:日本国内に住民登録がある児童の養育者
○ 対象となる児童:日本国内に住民登録がある中学校修了までの児童

【支給額】

○ 0歳〜3歳未満:一律月15,000円
○ 3歳〜小学校修了前:月10,000円(第3子以降の場合、月15,000円)
○ 中学生:一律月10,000円

なお、受給者の所得が「所得制限限度額」以上の場合、「特例給付」として年齢に関係なく、一律月5,000円の支給になります。

所得制限限度額とは、「622万円+38万円×扶養親族等の人数」で計算された額になります。たとえば、扶養範囲内の配偶者と子ども1人という場合、「622万円+38万円×2人=698万円」ということになります。このケースで給与所得控除額等相当分を加算すると収入額の目安としては「917.8万円」になります。一覧表にすると次のとおりです。

(内閣府HPの資料より作成)
児童手当の所得制限限度額

ただし、扶養親族等が同一生計配偶者(70歳以上の者)又は老人扶養親族であるときは、加算額が「38万円」ではなく、「44万円」になります。

【支給時期】

支給時期は、年に3回になります。1回に4か月分が支払われます。支払月は次のとおりです。

○ 10月(6月〜9月分)
○ 2月(10月〜1月分)
○ 6月(2月〜5月分)

【児童手当を受けるための手続き】

児童手当は、手続きをしなければ支給されません。子どもが生まれた場合や他の市区町村に転入した場合には、「児童手当・特例給付 認定請求書」を住所地の市区町村(公務員は勤務先)に提出する必要があります。市区町村から認定を受けると、翌月から支給されます。

ただし、出生日や転入した日(異動日)が月末に近い場合には、例外的に申請日が翌月になっても異動日の翌日から15日以内であれば、申請月分から支給されます。

また、毎年6月1日には、児童手当の要件に該当するかを確認するため「現況届」の提出が必要になります。現況届の提出をしないと、6月分以降の手当が受けられなくなります。

児童手当の所得制限限度額

2)改正の内容とその理由

①改正の内容

児童手当の特例給付の対象者のうち、所得の額が一定額以上の人については、児童手当が支給されなくなります。今回の改正では、世帯の所得を合算することは見送られたので、主たる生計維持者の所得で判断されます。

モデルケースとしては、子どもが2人で、年収103万円以内の配偶者がいる、年収1,200万円以上の人が支給対象外になるとされています。

つまり、扶養者が3人の場合、夫婦のうち一方が年収1200万円以上であれば、児童手当がもらえなくなるということです。

具体的な扶養人数に応じた所得額は政令で定めることになっています。施行時期は、準備期間等を考慮し、令和4年10月支給分からとなる予定です。

また、受給者の負担軽減を図るため、毎年提出が求められている「現況届」を原則として廃止することが予定されています。

②改正の理由
改正の理由は、政府によると「待機児童解消の財源を捻出するため」とのことです。待機児童とは、入所条件を満たして保育施設に入所の申請をしたにもかかわらず、入所ができない子どものことです。

出産しても保育所に入所できないと、共働き世帯の場合、働き続けることができないため、出産を諦めてしまうという問題があります。

そのため、待機児童問題は、少子化対策として何としても解消しなければならない問題です。ただ、その財源を児童手当の廃止で捻出することが妥当かどうかは別問題です。

3)改正に対する批判

①少子化対策に逆行する

日本では「第二次ベビーブーム」があった昭和48年を境に出生数は右肩下がりの状態です 。

厚生労働省の「人口動態統計速報(令和2年12月分) 」によると、令和2年1月から12月までの出生数は、速報値で「87万2683人」で、前年の「89万8600人」より2万5917人減少しています。「87万2683人」という数字は、過去最低を記録しています。

人口減少は、労働力不足、消費の減少を招き、日本の経済に深刻な影響を与えます。そのため政府(内閣府、厚生労働省)も少子化対策に積極的に取り組んでいます。

少子化の原因は、いろいろありますが、①晩婚化、②仕事と子育ての両立が難しいこと、③教育費の負担などがあります。

その内、③についての対策が「児童手当」です。つまり、児童手当も、少子化対策として給付されているということです。

そのため、今回の高所得者に対する児童手当の廃止は、少子化対策に反すると批判されています。「子どもは社会全体で支える」という発想で児童手当があるのに、高所得者には児童手当を給付しないというのはおかしいということです。

高所得者で、子どもを欲しいと思っている世帯にとっては、児童手当が支給されなくなることで、出産計算が狂う人も出てきます。「子ども2人」を予定していた人が経済的な負担を考慮して「子ども1人」に変更する可能性があるからです。これでは少子化対策に逆行してしまいます。

②子育て計画が狂う
子育て計画を考える場合、自分自身の収入だけでなく、保育施設に入れるかどうかや公的な支援も当然念頭に置きます。

ところが、今回の、高所得者に対する児童手当の廃止は、子育て計画への影響を全く考慮していません。

政府としては、「年収が1200万円もあるのだから、毎月5,000円が給付されなくなったからといって影響はないだろう」と考えているのかもしれません。

しかし、児童手当は0歳から15歳という長きに渡って支給されるものなので、単純計算しても15年×12か月×5,000円=90万円にもなります。これが2人なら180万円です。

結構な額になります。

高所得者というと「悠々自適」なイメージがあるかもしれませんが、高所得者の中には、朝早くから夜遅くまで普通の人以上に働いて、結果として高所得になっている人もいます。

そのような人には児童手当が支給されず、ゆるく働いて低所得の人には児童手当が支給されるというのは妥当なのかという問題があります。

③不平等感がある

高所得者の児童手当廃止で削減されるお金は、待機児童対策費用に充てられます。

しかし、地方では待機児童問題はほとんどありません。都市部の待機児童問題のために、地方の高所得者の支給がカットされるのは不平等だという意見があります。

また、今回の改正では、収入基準について、世帯単位での合算が見送られました。

世帯単位で収入を合算すると対象範囲が広くなるため、影響が大きいと判断されたからです。
しかし、世帯単位で収入を合算しないと、夫婦の収入状況によって不平等な結果が生じます。

たとえば、小さな子どもが3人で夫と妻それぞれが900万円の収入がある場合、世帯収入は1800万円になりますが、児童手当は15,000円×3人=月45,000円(年間54万円)が支給されます。

それに対して、小さな子どもが3人で夫が1200万円、妻が200万円の収入がある場合、世帯収入は1400万円ですが、夫の収入が1200万円以上あるため、児童手当は1円も支給されません。

収入を合算することは行政手続的に面倒であり、行政コストが掛かるため合算が見送られたという背景はあると思いますが、あまりに不平等な結果となる場合があるので、この点は早急に改正すべきだと思います。

ただ、そうすると対象範囲が広がるという問題が生じるので、その点の考慮は必要です。

4)今後はさらなる年収の引き下げがあるのか?

今回の改正により、児童手当廃止の影響を受ける子ども数は61万人で、全体の4%にすぎません。また、得られる財源も年間370億円程度です 。

児童手当の廃止については、与党内からも反対の声があるので、今回の改正では反発を招かないよう児童手当が廃止される対象者を絞ったのでしょう。ただ、これは、特例給付廃止に向けた布石にすぎないと思います。

現行法の特例給付では、扶養親族等の人数が3人の場合、収入基準は「960万円」なので、改正された場合であっても、「960万円以上1200万円未満」であれば、月5,000円の特例給付が受けられます。

この特例給付は、あくまで特例的に支給しているものなので、政府としては、徐々に年収基準を引き下げていき、将来的には特例給付を無くしたいと考えているはずです。

今回の児童手当の廃止については、「自分は対象外だった」と安心している人もいると思いますが、安心するのはまだ早いと言うことです。

来年以降、収入基準を引き下げてくる可能性は十分にあるので、児童手当の改正については今後も注意深くみていく必要があります。