(菅首相の緊急事態宣言の会見の模様(出典:首相官邸Youtubeチャンネルより)

政府は、1月7日、二度目の緊急事態宣言を発出しました。
東京都の新規感染者数は同日2400人を越え、病床使用率は79%と待ったなしの状況に追い込まれています。
都知事らの要請を受けての後手後手の対応で、「遅きに失した」と批判されているのも当然と言えます。

振り返ると、菅首相は、Go Toトラベルの継続に固執し、感染拡大が続く中、「ガースー」発言をした12月11日のネット番組で「Go Toトラベルの中止は考えていない」と言い切っていました。
支持率の急降下を受けて、一転して12月28日からGo Toトラベルを中止しましたが、その時には既に手遅れで、12月31日の大晦日には、東京都の新規感染者数は1,337人となりました。
全国各地で感染者が増加しており、何もかも遅い判断が悔やまれます。

今回の緊急事態宣言は、8時以降の飲食に的を絞った限定的なもので、8割おじさんこと京都大学の西浦教授の試算によると、飲食店の時間短縮などに限る緩やかな対策の場合、ほぼ横ばいとなり、2月末でも1日約1300人に上ると試算されています 。
この試算が正しければ、長期化を視野にいれなければなりません。

1)緊急事態宣言とは?

緊急事態宣言は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づき発出されるものです。
この法律は、ウイルス等が全国的かつ急速にまん延し病状の程度が重篤となるおそれがあることから、緊急事態措置に関する事項について特別の措置を定め、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的としています(措置法第1条)。

つまり、緊急事態宣言というのは、国民の生命と健康を保護するためのものであると同時に、国民生活や国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることも目的になっているということです。

緊急事態宣言が発出されると、各種要請が特別措置法に基づく要請ということになります。
強制力があるわけではありませんが、法的根拠に基づく要請なので、多くの事業者は従うことになります。
なお、臨時の医療施設開設のための土地・建物の使用(措置法第49条)と医薬品や食料などの収用・保管命令(措置法第55条)は強制力をもって実行することができるようになります。

2)後期高齢者医療とは?

2)今回の緊急事態宣言のポイント
【対象地域】
東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県

【対象期間】
1月8日〜2月7日

【制限の内容】
①飲食店について午後8時までの時間短縮要請(酒類の提供は午前11時〜午後7時)
②テレワークによる出勤の7割削減
③不要不急の外出自粛、特に午後8時以降の外出は控えること
④イベントの人数制限(5000人以下かつ収容率50%以下)

【解除基準】
「ステージ4」からの脱却

飲食店だけが悪者なのか?

3)緊急事態宣言の内容とその評価

緊急事態宣言を受けて、1都3県は「緊急事態措置」を決定しています。
国の基本的対処方針を踏襲するもので、1都3県が一丸となって対応するということで、ほぼ同じ内容になっています。

(1)対象地域
現在、対象地域は、「1都3県」だけですが、大阪府、京都府、兵庫県は、1月9日に西村大臣に緊急事態宣言の発出を検討するよう要請しています。
菅首相は「数日状況を見る」と呑気なことを言っていますが、近日中にも緊急事態宣言の対象になる可能性があります 。
また、愛知県と栃木県も「緊急事態宣言の要請を検討している」としています 。
既に感染は全国に広がっており、各地で新規感染者の数が過去最高を更新している状況にあることから、今後さらに感染が広がれば全国を対象に緊急事態宣言が発出される可能性があります。

(2)対象期間
対象期間は、1月8日〜2月7日の1か月となっています。
しかし、コロナ対策分科会の尾身会長は、1月5日の会見で「緊急事態宣言を1か月未満で解除するのは至難の業」だと述べています 。
その後、緊急事態宣言での記者会見では、「1か月未満でステージ3に近づけるのはそう簡単ではないが、4条件を満たせば可能」とトーンダウンしました 。
4条件とは次のとおりです。

①具体的な、強い効果的な対策を打つこと
②国と自治体が一体感を持って明確なメッセージを国民に伝えること
③経済支援などをしっかりすること
④国民のさらなる協力が得られること

4つの条件を満たすことは非常に難しいので、尾身会長も表面上は政府に忖度して「1か月以内は可能」と言いながら、暗に「1か月では無理だ」ということを述べたのかもしれません。

(3)制限の内容
今回の制限の特徴は、広範囲に休業要請をするのではなく、急所に絞って制限するというものです。
具体的には、飲食店に対して午後8時までの営業時間短縮の要請です。
その理由としては、飲食店での感染が多いという専門家の意見があることと、飲食店の時間短縮によって大阪や北海道は感染拡大を抑え込めているからということでした。

しかし、東京都の場合、7割は感染経路不明者で、電車で感染したのか、職場で感染したのか、飲食店で感染したのか特定されたものではありません。
「マスクを外すのでその多くがおそらく飲食店だろう」という程度の話しです。
また、大阪では、新規感染者数が1月6日は560人、7日は607人、8日654人と連日過去最多を更新し、飲食店の時間短縮要請だけでは感染を抑え込めないことが明らかになっています 。
これだけ市中に感染者があふれている状況では、通勤や日中の飲食でも感染は起こるため、夜間の制限だけでは効果は限定的と考えられます。

テレワークによる出勤の7割削減は効果的な対策だと思いますが、9割は中小企業なので、テレワークをするのは難しいという現実があります。
不要不急の外出制限については、「不要不急」が何かが不明確なのと、午後8時以前なら外出してよいと捉えられていることが問題です。
全体として緩やかな制限で、この程度の制限で良いなら「緊急事態」と言えるのか疑問です。

(4)解除基準
緊急事態宣言を解除する基準としては、「ステージ4」からの脱却とあります。
つまり、「ステージ3」になったらということです。
「ステージ4」と「ステージ3」で違うところは、①病床使用率、②療養者数、③直近1週間陽性者数の3つになります。

(新型コロナ分科会提言「今後想定される感染状況と対策について」より)

ステージ3 ステージ4 東京
病床使用率(%) 20 50 78.1
療養者数(人)
人口10万人あたり
15 25 89.3
直近1週間陽性者数(人)
人口10万人あたり
15 25 61.9

東京の数値:厚生労働省「都道府県の医療提供体制等の状況」2021年1月8日時点

東京都の場合、新規陽性者の数が500人程度になることがひとつの目安とされています。
冒頭で述べたとおり、西浦教授のシミュレーションでは、緩やかな制限では横ばいが想定されているので、2,000人を越えている状況で、1か月後に500人まで下げることは極めて難しいと言えます。
ちなみに、西浦教授のシミュレーションでは、昨年春と同様の厳しい制限にすれば、2月末には100人を下回ると試算されています。

4)経済支援の内容

午後8時までの時短営業に応じた飲食店については、1店舗あたり1日6万円の協力金が支払われます。
月最大180万円の支援です。
逆に、時短営業要請に応じない事業者については公表できるようになります。
2回目の緊急事態宣言を受けて拡充されたのは、これだけです。

従来からあった、以下の経済支援はそのまま継続されますが期限が迫っています。
ただし、雇用調整助成金については、感染拡大を受けて延長が検討されています。

○持続化給付金(2021年1月15日まで)
○家賃支援給付金(2021年1月15日まで)
○雇用調整助成金(2021年2月28日まで)
○実質無利子・無担保融資(2021年前半まで)
○国税・地方税・社会保険料の納付猶予(2021年2月1日まで)
○固定資産税・都市計画税の減免(2021年2月1日まで)

変異種拡大中でも入国禁止せず

5)穴だらけの水際対策

感染力が高いとされる新型コロナウイルスの変異種が英国や南アフリカで確認され、その後、世界各地に広がっています。
緊急事態宣言が発出されたこともあり、例外扱いしてきた11カ国・地域からの外国人の新規入国は全面的に止める予定でした。
ところが、菅首相の意向により、引き続き短期の出張者などの入国を受け入れることになりました 。

菅首相はこの点について、「1人でも変異種の感染者が出たらその国の入国は禁止する」と言っています。
しかし、変異種が確認された時点では、既にその国で感染が広がっている可能性があり、その時点で入国を禁止しても手遅れです。

水際対策で重要なのは、外部から入ってこないよう早く止めることです。
何はともあれ即時に入国を禁止して、例外的に入国させるなら、入国後は、自主隔離で済ませるのではなく、2週間は施設においてしっかりと隔離することを義務付けるなどの対応をすべきです。

6)政府に期待すること

菅首相は、緊急事態宣言の会見で、「1か月後には必ず事態を改善させる」と強調しました。
しかし、ネットでは、「楽観的すぎる」、「何も響かない」、「原稿棒読み」、「自分は毎日会食で若者のせい」などと厳しい意見ばかりです。
水際対策についても野党のみならず与党内からも「緊急事態なのだから外国からの入国を全面禁止にすべき」との声が挙がっています。

政策に関して一定の信念を持つことは大事ですが、感染症対策においては、御用学者以外の専門家の意見も真摯に聞いて柔軟に対応することが求められます。
感染制御では「早く、強く、短期間で」が重要なキーワードですが、今の状態は「遅く、緩く、長期間」になりそうな状況です。

Go Toキャンペーンは、感染者を拡大させただけでなく、国民のウイルスに対する危機意識も低下させてしまいました。
経済も大事ですが、感染拡大が収まらず長期化すれば経済へのダメージは更に深刻になります。
同じような過ちを繰り返さないためにも、思い切った政策転換を期待したいところです。